菖蒲牧場

基本情報

代表者 菖蒲 千春
牛舎 つなぎ牛舎
頭数 搾乳牛45頭、育成牛27頭
牧場所在 千歳市

後継者は〝酪農女子〟
アイデアマンの父と根っからの牛好き母の酪農家DNAを受け継ぐ

北海道、空の玄関口として知られる千歳市。新千歳空港からほど近くに広がる平野の中に、菖蒲(あやめ)牧場はあります。高速道路のインターチェンジから車で約5分の立地ですが、広大な畑の中を直線道路が突き抜ける周辺の風景は、いかにも北海道の代表的なイメージそのままといえます。

菖蒲牧場は、千春さんと、父一博さん、母和子さんご両親の3人で営農されています。農家3代目の一博さんが酪農の将来性に着目し、畑作の傍ら牛5頭を飼い始めたのが約50年前。それから徐々に規模を拡大させ、25年前には酪農を専業に。現在は約70頭を飼育しています。

「実は父は、牛のことはあまりよく分かっていない」と、千春さんからいきなりの衝撃発言。真意を確認すると、菖蒲牧場の見事なまでの役割分担と強固な信頼関係が浮かび上がってきました。

強固な家族間連携で安定経営を実現

酪農関係の出身ではないにもかかわらず、「昔から牛が好きで好きでたまらなかった」と和子さん。好きが高じて酪農家に嫁いだ、と冗談めかして笑います。結婚後、一貫して牛の飼育全般を担い、今では白黒模様や乳房だけでどの牛か見分けがつくほどというから驚きです。

一方、酪農に関わる全般的な作業に関心が高い一博さん。牛の管理は和子さんに一手に任せ、自身は飼育環境の整備に汗を流しています。畑や大工仕事、機械、電気設備の整備など、幅広い作業を精力的にこなします。自分で考え、工夫しながら作り上げていく仕事に大きなやりがいを感じているといいます。

このような両親の背中を見ながら、千春さんはいつしか自身も酪農に携わる人生を送りたいと考えるように。2人の兄はすでに別の道に進んでいたこともあって、中学生のころには酪農学園大学に進学したいという意志を持ち始めたといいます。大学では酪農学科に進み、乳牛の専門的な知識と実習を積み重ねてきた〝酪農女子〟は育成部門を担当。分娩から育成、搾乳段階まで健康的に牛を成長させる重要なポジションです。

このように分担がはっきりと分かれてはいますが、強い信頼感で結ばれた家族だけに、安定的な営農が実現できているのだと考えられます。

試行錯誤を重ねる高品質乳への追求姿勢

「乳質、乳量アップのためなら、思いついたことはすぐに実践する方針」(一博さん)のため、菖蒲牧場の歴史は試行錯誤の連続でした。

20年ほど前、牛の足腰ストレス軽減に効果ありと聞きつけ、牛床(寝床)に砂を敷き詰める方策を導入したことがありました。一般的な牧草ベッドに比べ、足場がしっかりとする効果が認められた一方、砂の搬出入に大きな労力を要したため、数年後には断念せざるを得ない結果に。

また、水槽の改善にも工夫。新鮮でかつ十分な水量がいつでも全頭に行き渡るよう水槽や給排水管を大型化し改善を図りました。ところが、排水管でのゴミの詰まりや水槽の清掃などで想定以上に作業量が膨らんだ反面、期待した効果が得られなかったために、さらなる改善を余儀なくされました。

その一方で大きな成果を収めた工夫も。

菖蒲牧場では、非遺伝子組換え (NON-GM)飼料のみで飼育された牛による「NON-GM牛乳」を生産しています。当然のことながら、最重要課題のひとつである給与飼料の設計には十分配慮していましたが、乳量が上がらず、牛の乳房炎も散見されたといいます。

様々な工夫や改善を取り入れても効果が見出せず、頭を抱えていたところ、ふと気づいたことがありました。

「飼料が良くても、保存状態が悪かったのでは」

確認したところ、堆積した飼料用トウモロコシをシートで覆ったスタックサイロに雨水が浸入し、サイレージ(発酵飼料)にカビが発生していました。そのカビがトラブルの原因では?と保存状態に細心の注意を払い様子を見たところ、乳量だけでなく乳質も向上。以来、多面的な観察眼で課題に対処するようになりました。

また、近年の猛暑は、北海道といえども酪農家の悩みの種。気温の上昇は乳質や乳量の低下につながり、ひいては牛の大きなトラブルに発展することも。そうした悩みを一博さんのアイデアが一発で解消。何と牛一頭一頭の背中に風が当るようダクトファンを天井に配したのです。しかもファンだけを購入して、後の資材は農業資材でまかない、さらに自身で設置したことで非常に安価に実現できました。

「大きな経費を投じて設備を増強しても、途中でつまずくこともある。自分のやれる範囲で工夫を取り入れながら最大限やっていくだけ」(一博さん)とこともなげに笑いますが、一方で将来への投資は積極的。管理する30ヘクタール超の飼料畑で作業効率向上が見込めるとあらば、トラクターや農機具を一気に新調したほか、昨年には自宅用、牛舎用に太陽光発電システムも設置。経営効率化に余念がありません。

受け継がれる緊張感と責任感

菖蒲牧場の出荷者名義は2013年に千春さんへと変更、本格的に事業継承の流れを進めています。

「人間の口に入るものを搾っていると思うと、自然と緊張感が高まります。また、選ばれた酪農家だけが生産する牛乳なので、自分のミスが他の生産者にも影響を及ぼすとなると、責任感も大きくなります」と、千春さんは背筋を伸ばします。

50年前から変わらぬ創意工夫を積み重ねる向上心と牛を愛する姿勢は、千春さんにもしっかりと受け継がれているようです。
受け継がれる緊張感と責任感

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